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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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サビキ釣りを楽しむファミリー。
投げ釣りを楽しむカップル。
少し離れた捨て石周りを静かに探る釣り人――。
秋、釣り場は大勢の釣り人でにぎわっていた。
週末には遠く県外からも釣りファンがやってきた。

冬、釣り場のにぎわいは消えた。
釣り人は常連だけになった。
にぎわいの後に残された物は、膨大な量のビニール袋、ペットボトル、空き缶。
使い残しのコマセや食べ残された弁当が腐敗して異臭を放っていた。
常連の一人がつぶやいた。
 「このままじゃ、立入禁止だな……」
釣り人同士の付き合いは意外と浅く、名前さえ知らぬ場合も少なくない。
あの人、黄色いカッパの人など三人称かあだ名で呼び合う。
よほど気の合う者同士でなければ、釣り以外での付き合いは皆無だった。
もう一人の常連が応えるともなく言った。
 「俺等でやるかね?」

翌日、釣り場には3種類のゴミ袋十数枚を持った二人の常連の姿があった。
フィッシンググローブの代わりにゴム引き軍手、釣り竿の代わりに炭バサミ。
傍目には奇妙な格好だった。お互いに失笑した。
 「なぁ、ライフジャケットが気恥ずかしくないかね?」
 「ゴミ拾いで水難事故にあったんじゃ笑い話にもならん。
  そもそもが格好のいい事をしでかすわけでもあるまいよ」
 「まぁな。じゃ、やりますか」
まずは広い防波堤上の東端から手掛けることにした。
落ちているビニール袋を広げて中を検分した。
分別などされているはずもなかった。
空き缶に腐った弁当が張り付いていた。
 「おいおい、こりゃ全種類のゴミを同時進行せにゃならんな」
 「燃やせる物は燃やしちまうかね?」
 「ここは港湾施設内だ。火を焚いたらまずかろうよ。」

この日の作業は2時間ほどで終了となった。
可燃、不燃、資源の三種類に分けた特大ゴミ袋。
 「うちに持ち帰るにはこれが限度だな。これ以上は車に積めん」
 「清掃局に引き取りを頼めんもんかね?」
 「建前上、ここは関係者以外立入禁止。お役所は動いてくれまいよ。
  下手に申し出たら、勝手に入るなと追い出されかねん」
 「勝手に入り込んで、勝手に散らかしたんだから、勝手に片付ける。
  これが世の中の道理だわなぁ」
両手に特大のゴミ袋を提げ、ヨタヨタと防波堤入り口まで運ぶ数百mの距離。
充実感も満足感もなかった。だが、不満もなかった。
二人ともすでに年金生活。
時間だけはいくらでもあった。
ざるで水を汲むような作業だが、「誰かがやらねば」と思った。

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HN:
YASU ・居眠釣四郎・眠釣
性別:
男性
自己紹介:
釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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