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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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 初めてルアーを投げた日、彼女は一投目でルアーをロストした。まともに飛ばすことができず、目の前にボチャッと落ちた。それを回収する時に、堤壁に引っ掛けて失った。5投目に2個目のルアーをロストした。今度は係留された船のロープに引っ掛けてロスト。3個目のルアーは投げた途端にどこかへ飛んでいった。フリーノットで結んだはずが、結び方が甘かった。これ以上ルアーを失うわけにはいかない。明るい時間に来て、練習することに決め、彼女は恋人の応援に回った。

 恋人はそれなりにルアーを飛ばしていた。中学生時代に釣りをして遊んだ経験がものをいった。しかし、30分としないうちにラインをクシャクシャにしてしゃがみ込んだ。ヘタクソ。初釣行で惨敗を喫した二人は、お互いを指さして笑った。

 それからというもの、デートはいつもベイエリアでのシーバスゲーム。二人ともまだ1匹も釣れていなかった。
 「そろそろ稚鮎が遡ってくるから、いい時期のはずなんだけどな」
顔見知りになった常連の釣り人が話しかけてきた。二人の行く釣り場の常連達は優しかった。ルアーの飛ばし方、リトリーブの仕方、なんでも教えてくれた。釣れたシーバスを「持っていくか?」と分けてくれた事もあった。さばき方から調理方法まで、すべて教えてくれた。血抜きしてくれたシーバスを持ち帰り、作ってみたカルパッチョは絶品だった。
 「なんとしても、自分で釣りたい」
ワインとカルパッチョの味を思い出しながら、そう思った。

ロッドを持つ彼女の手に、コツンと違和感が伝わった。
「――?!」
フローティングミノーをゆっくりと引いているのだから、根掛かりのはずはない。続いて、グワン! とロッドが引っ張られた。思わずロッドを立てた。20mほど先の水面に白く水飛沫が上がった。
 「キャァ〜ッ!」
もの凄い力で引っ張られたような気がした。
 「ロッドを寝かせろ! エラ洗いさせてるとバレちゃうぞ!」
恋人の声がした。ロッドを寝かせる? 耳に言葉は届いているが、脳は言葉を理解しなかった。頭の中が真っ白になっていた。魚の走りに翻弄されているうちに、ロッドを横倒しに構えていた。ゴリゴリと強引にリールを巻いた。ドラグがジリジリと唸り、スプールからラインが引き出された。おかまいなしに巻き続けた。魚の抵抗は徐々に弱まっていった。ようやく足元まで引き寄せた。恋人がタモを差し出した。
 「もっと右! 違う、ラインを巻き取りすぎだよ!」
恋人の叱声に慌て、彼女はリールのベールを返した。パッと重量感が消えたその瞬間、彼女は我に戻った。「しまった! バラした」と思った。
 「よっしゃぁ! 入った!」
恋人の興奮した声が響いた。彼女がベールを返し、ラインが緩んで尾から水面に戻ったシーバスは、自分からタモの中に飛び込んでいた。

 堤防上でバタバタと暴れる銀白色のシーバス。彼女の生涯初の釣果は53cmだった。とてつもなく大きな魚に見えた。
 「あんまりはしゃぐなよ」
恋人の声が聞こえた。バタバタと暴れるシーバスに合わせて、彼女は小躍りして跳ねていた。天を振り仰いだ。満点に広がる星が彼女を祝福するかのように瞬いた。

今ではレディアングラーとして、常連からも一目置かれる彼女はこう言う。
 「最初の一匹が釣れるまで、ルアーで魚が釣れると思わなかった。
  ルアーを投げる、その行為がカッコイイと思ってやってたのかも。
  だって、ルアーはおもちゃみたいだもの。ねぇ?」
今では夫となった彼が続けた。
 「彼女に初釣果の先を越されたのはくやしかったですよ。
  『彼女に釣れるんだから俺も!』
  なぁんて、根拠のない確信をしましたね。
  最初の一尾はきっかけに過ぎないって事もわかりました。
  それからは、『釣れる!』という信念を持って竿を出さないと
  釣れないってことがわかりました」

 ベイエリアの小さなマリーナでルアーを投げる二人。今回の釣行を最後に、彼女はしばらく釣りから離れる。お腹に宿った小さな命を育むために。

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プロフィール
HN:
YASU ・居眠釣四郎・眠釣
性別:
男性
自己紹介:
釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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