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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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 「武士道とは死ぬことと見つけたり」の件(くだり)で有名な『葉隠』。昭和の軍部によって玉砕や自決の名目に祭り上げられてしまったが、本来は「常時、死に臨む覚悟で懸命に生きるべし」という箴言である。この『葉隠』には、武士の心得だけではなく、武士の生活規範やノウハウも記されている。面白いところでは、現代で言うところのホモセクシャル、衆道についての手ほどき(?)まで語られている。「武士の死に犬死になど無い。ただひたぶるに死に狂え」といった過激な描写もあるが、玉砕、自決を潔しとした昭和軍部の曲解とはまったく違う、「義に則り、武士の面目と意地、主家を守る為」という有事の際の心得が前提になっている。『葉隠』を読み込んでいくと、現代の日本人が忘れてしまった、良い意味での意地や意気地、廉恥、報恩、無私の精神などが語られており、自らを省みるに最適の書である。岩波文庫から出ている『葉隠』(上・中・下)は、良く言えば読み応えがあるが、ストーリーの時系列がめちゃくちゃに前後しており、切腹した人物が再登場したかと思うとまた切腹したりで、小説や読み物として取りかかると、読み手は混乱してしまう。あくまでも、武士の心得を登場人物に辿らせている「心得集」「箴言集」として読み進めなければならないので、歴史好きの読書好きでもないと少々ツライ。かなりデフォルメされているが、隆慶一郎先生の娯楽時代小説『死ぬことと見つけたり』(上・下)から入ると、本編も読んでみる気になれるだろう。『死ぬことと見つけたり』は執筆中に隆慶一郎先生が逝去されたため、未完作品となっており、本歌である『葉隠』への興味を一層かき立ててくれる。
隆慶一郎=脚本家、時代小説作家。人気漫画「花の慶次」の原作者と言えばわかりやすいだろうか。

 さて、このように優れた武士の道徳規範、武士の思想的な柱石が生まれたのは、江戸でも、尾張でも、紀州でも、水戸(水戸黄門こと、水戸光圀による水戸学は同じ頃に興っているが、こちらは尊皇思想)でもない。肥前(現在の佐賀県)鍋島藩の藩士、山本常朝が語った武士の心得である。山本常朝なる人物は、今で言う "侍ヲタク" もしくは "侍バカ一代" とでも呼ぶべき人物。武士が武士たり得るには、人が人たり得るには、恩と義に報いるには、慈悲と情けとは、etc……。ひたすら誇り高き武士としての生き様、死に様を思い考え、自ら語るサムライ哲学に「我もかくありたし!」と身を揉んでいたように思えてくる。

 鍋島藩の武士は、「武士は喰わねど高楊枝」などと、貧窮にあえぐ身を儒教に寄りかかって自己欺瞞していた貧乏旗本や御家人、あるいは諸国の浪人とは、まったく違っていたようだ。鍋島藩は役を解かれて浪人しても、他国に出る事(他藩への仕官)は禁じられていた。国元にあって、有事の際は兵として合戦に赴くことが義務付けられていたという。現代で考えれば、リストラで会社をクビにしておきながら、再就職を禁じて、繁忙時には出て来いと言うようなもの。こんな虫の好い話はない。と、考えるのは武士として心得違いとするのが『葉隠』の肥前鍋島藩。他国に出さず国元に置くのは、一朝事あらば馳せ参じて不面目を雪ぐ(すすぐ)チャンスを与えているのだ。だから、国元に置いたまま浪人させられるのは、殿様の慈悲深いお仕置きであると心得よ、と説いている。物は言い様、考え様……と思ったが、実際に島原の乱では鍋島藩の浪人達が死を恐れぬ勇猛果敢な戦い(死に狂いの奮戦)をして面目を施しているのだから、あながち詭弁とは言えないようだ。

 その佐賀県は現代において、お笑い芸人ハナワのネタで一躍有名になったが、あまり良い意味で有名になったとは言い難い。「田舎」。それも "ド" が付く、文化・経済の後進地として笑い飛ばされている。「ちょっと待て!」と言いたい。思想的には『葉隠』を生み、文化工芸品としては『唐津焼』を生み、名刀工『肥前忠吉(勝海舟の佩刀)』を生んだ地ではないか。政治的にも、幕末には薩長土肥の連合を組み、江藤新平、大隈重信らの明治の元老を輩出している。自分は佐賀とは縁もゆかりもなく、佐賀出身の知人もいないが、『葉隠』をきっかけに佐賀の歴史を拾ってみると、化け猫騒動を含めて、佐賀は日本人の日本人たる骨頂を示す土地柄だったでのはないか。機会があれば佐賀の地を訪ね、鍋島武士の心意気を遺す人士と話をしてみたいものだ。

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YASU ・居眠釣四郎・眠釣
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釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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