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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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【釣り人の自己責任】
 釣りは「危険」か「安全」かと問われたならば、『釣りは危険!』ときっぱり断言できます。転倒、転落、落水、高波、船の事故から、夏場の熱中症や落雷、冬場の寒気、それに睡眠不足や過労など、危険要因はいくらでもあります。釣りに限らず、レジャーやスポーツに危険は付きものだが、危険を避ける知識と危難遭遇時の装備や対処法を心得ておく事で「安全に楽しむ事」は可能です。肝心なのは危険の種類を並べることではなく、危険発生の原因、前兆、回避策、対処法を正しく身に付けておくことです。

「痛タタッ!えっへっへ……」で済めば良いのですが、取り返しのつかない事故も後を絶ちません。万が一は誰の身の上にも起こります。備えあれば憂いなし。備えがあって知識があれば、緊急時にも冷静に判断、行動できます。釣り人の自己責任とは、「他人に迷惑を掛けない責任」「危険を避けて事故を起こさない責任」「事故が起きても被害を最小に抑える手だてを講じておく責任」を指します。釣り人の自己責任を果たすために、安全装備と危険回避の知識を身につけましょう。万が一の時は「118」に救助要請!
 『レジャーの事故は 死んだら死に損
    ケガと痛みは自分持ち 悲しみ苦労は家族持ち』

 上記は私の運営するWEBサイトに掲載している、『釣行時の安全装備と危険回避の知識』の冒頭文である。「水辺のレジャーに根性や度胸など不要。臆病なまでの慎重さが身を守る」というのが私の持論。釣りであれ、サーフィンであれ、ダイビングであれ、所詮は遊びなのだから、命を懸けるほどの価値などありはしない。話のネタに「不摂生自慢」「持病自慢」という、いわゆる「おバカ自慢」があるが、レジャーにおける同好の士が集う席で「無謀自慢」をネタにした覚えのある方もいよう。酒の席での冗談や軽口ならともかく、実際の海辺にこのような御仁がいるのだから呆れてしまう。私が遭遇した実例を挙げてみよう。

-泥酔状態の釣り人-
 岸壁際で仕掛けを投入してはしゃがみ込み、時にべったりと座り込む。しばらくして立ち上がるとフラ~リ。どう見ても挙動不審で、「どうしたんだろう?」と近付いてみると、飲みかけのワンカップ酒が傍らに置いてあり、顔が真っ赤っか。クーラーボックスの脇に置かれたレジ袋にはビールやチューハイの空缶が5本以上。泥酔状態だった。海辺でチョイと一杯、ほろ酔い気分で釣りの楽しさも満喫というのはアリだろうが、真っ直ぐ立っていられないほど飲んでは危険だ。いくら平坦な岸壁の釣り場でも、自分自身がフラフラとしてたのでは危険この上ない。一般に港湾の護岸や防波堤は垂直に切り立っており、自力でよじ登る事は不可能だし、救護設備おろか、救助を待つ間にすがりついておく手掛かりさえも備えられていない。シラフでもライフジャケットなしで落水したらアウトである。「危ないから道具を仕舞って、車に戻って寝た方が良いよ」と忠告しておいたが、帰りの運転も心配であった。私はまったく酒を飲まない(飲めない)のでよくわからないが、泥酔時は意識朦朧状態になるだから重病人も同然だろう。酔っぱらっている本人はご機嫌なのだろうが……。

-無防備な釣り人-
 消波ブロック積みの防波堤。良型のクロダイやメジナが釣れるのだが、足場の不安定な消波ブロックの上での釣りになるのでベテラン向けの釣り場である。こんな場所で釣りをする時には、荒磯での釣りと同じくライフジャケットの着用が必須なのだが、私の隣に釣り座を構えた自称ベテラン氏は、スポーツシャツに釣りベストだけ。ライフジャケットを着用していた私に、「えらい気合いの入った格好しとるねェ」と声を掛けてきた。「いや、気合いが入っているワケじゃなくて、命が惜しいから着てンですよ」と答えると、「そんな大げさな格好しとると肩が凝るだろ?」と返されてしまった。残念な事にベテランほど安全装備に無頓着で、「ライジャケ? 夏場は暑いし、そもそもが動きづらいんじゃね? こちとら釣り歴ン十年のベテランだぜ。そんな素人みてェな格好で釣りしてられっかィ!」と、軽装を誇るような傾向がある。ベテランでも素人でも、落水時の危険に変わりはないのだが、それを忠告するとお決まりのセリフが出てくる。「自己責任でやってンだから、余計なお世話だ!」。しかし、自己責任でやっていると強弁するにしては、ライフジャケットは着用しない、救難ロープを用意しているわけでもない。田んぼの水路で小鮒釣りでもするのと同じ格好で、どこに自己責任を負っているのかと問い詰めたくなる。身近で手軽な防波堤、岸壁、砂浜でも海辺の危険は同じ。「身近で手軽な釣り場だし、通い慣れているから平気だ」という思い込みが事故の元になる。

【百聞は一見に如かず】
 さて、知識と装備は万全であっても、実際に落水したらどうなるのか。いくら公認釣りインストラクターといえども、本当に遭難したり、溺れ死んでみるわけにはいかない。ところが安全を担保した上で、着衣での落水体験ができる講習会が昨年12月7日に実施された。第四管区海上保安本部の主催による「命を守るライフジャケット着用体験講習会」である。海上保安官による安全レクチャー、そして現役の海上保安庁潜水士(通称:海猿)の方々による落水体験サポートという、夢のような体験講習会である。
 講習会場は水温28度の屋内ダイビングプール。寒さ、波、風はまったく無いが、実釣時の条件に近付けるべく、真冬の服装での落水を想定して、裏フリースのアウトドアパーカー、オーバーパンツ、ももひきを着用し、足元は厚手の靴下にスニーカー履き。落水時の着衣としては最悪の条件である。まずはライフジャケットを着用せずに落水体験。冬物の衣服が身体にまとわりついて身動きならなくなる、と思っていたのだが、予想に反して衣服の含んだ空気の浮力で意外と浮いていられた。ただし、立ち泳ぎで助けを求めるのは無理であった。水面に対して身体が垂直になると、衣服の含んでいた空気が一気に抜け、急激に浮力が失せてパニックに陥る間もなく水没してしまう。ライフジャケット未着用で落水したら、身体の力を抜いて仰向けに浮かぶ「浮き身」の姿勢をとって、呼吸と視界を確保し、無理に泳ごうとしないで、静かに浮いて体力を温存しながら救助を待つ事だ。

 続いてライフジャケットを着用しての落水体験。ベーシックなベスト型、自動膨張式のベスト型、自動膨張式のポーチ型のそれぞれで体験したが、最も安心感があるのは、やはりベーシックなベスト型。落水しても即時に浮いていられるので絶対の安心感があるし、浮力体が転倒時や転落時の衝撃から脊椎や胸部を保護してくれる点でも安心できる。また、なんと言っても安価であり、実売価格2980円のライフジャケットでも充分役立ってくれた。
 自動膨張式は膨らむまでの時間に差があり、遅いものだと「阿弥陀様のお姿が見えかけた頃に膨らんでンじゃねーよッ!」と言いたくなるほどであった。ポーチ型の浮き輪が飛び出すタイプは自力で浮き輪につかまらなければならないので、意識を失っていたら役に立たない。膨張式のライフジャケットやポーチ型は落水時に護岸壁や岩に激突する心配や、意識を失う事のない船・ボート専用である。

 救命ボートへの乗り込みも体験したが、これは難しかった。正直、乗り込むためのコツを体得していないと無理。プールという止水状態でも、初めのうちはボートを海猿の方々に押さえていていただかないと、「暖簾に腕押し」状態で乗り込めなかった。乗ると言うよりも、産卵のために上陸するウミガメのように、ボートに身体ごとのし掛かっていくのがコツ。コツを掴んでからは一人でも乗り込めたが、時化の海だったらまず乗れないだろう。そんな時は乗り込もうとして無駄に体力を使うよりも、ボートにつかまっている方が良いそうだ。この他、クーラーボックスやペットボトル、ゴミ袋の浮力も実践体験。容量16リットルのクーラーボックスなら体重65kgの人間を余裕で浮かばせ、引き寄せる事も可能。ペットボトルは2リットルを3本くくり合わせたものを、アゴの下に当てるようにして呼吸と視界を確保すれば安心して浮いていられた。ゴミ袋は結び目を下にして、その結び目につかまれば浮いていられるが、握力が続かなくなる。抱き付こうとしても滑ってしまうし、強引につかむとパンクしてしまうので、実用性としては今ひとつであった。ともあれ、いずれの方法も、落水者を陸上に引き上げる事が目的ではなく、海保や救急の救助隊の到着を待つ間、落水者が溺れてしまわないようにしておくための手立てである。
 絶対にやってはいけないのは、海に飛び込んで落水者を助けようとする事。救助技術のない者が飛び込んだら、その時点で自分自身も落水者になる。水難救助のエキスパートではない私たちにできる事は、迅速な通報による救助要請と、救助隊の到着まで落水者を浮かばせておくしかない事が、身に沁みてわかった。講習会終了後に受講証明書を頂戴したが、これは落水者を見殺しにしない、落水しても見殺しにされないための講習を受けた証だと思っている。

【それでも死んだら死に損】
 私が釣りに出掛けて海の事故で死んだとしても、「故人は海を愛し、海を楽しみ、海で死んだ。まさに海を愛する者の誉れであり、故人も本望であったと思います」などといった弔辞を読んでくれる人などいるはずもない。残された家族にお悔やみの言葉くらいは掛けてくれようが、釣友たちにすら「アイツはバカだね、遊びで死ぬなんて愚の骨頂だ」と誹られるのが関の山であろう。レジャーの事故は死んだら死に損、ケガと痛みは自分持ち、悲しみ苦労は家族持ち、なのである。

-「波となぎさ」'08年3月31日発刊 175号 掲載稿-

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YASU ・居眠釣四郎・眠釣
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自己紹介:
釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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