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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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 第○管区海上保安本部巡視艇の艦上。海上保安官は備え付けの双眼鏡で前方の防波堤を見やった。数人の釣り人が竿を出しているのが見える。拡声器のマイクをつかんだ。
 「この防波堤は立入禁止です。速やかに釣り行為をやめて退去してください」
防波堤上の釣り人たちが忌々しそうな表情で巡視艇をにらんだ。
 「死ぬのは俺等なんだから、放っといてくれりゃいいのに」
 「海は誰のモンでもねぇのによぉ」
悪罵を吐きながら釣り道具を片付け、そそくさと引き上げていった。

 この防波堤は過去、数十人の釣り人が命を落とし、あるいは消息を絶っていた。単純な転落事故もあるが、そのほとんどは不意の高波に飲まれ、海に叩き込まれる悲惨なものだった。高波の恐ろしさは、波に襲われるまで気付かないということだ。音もなく、静かに海面がせり上がり防波堤を越えてくる。「ドッ!」という波の砕ける音が聞こえた時には、もう遅い。波の高さは一定ではない。天気予報などで報じられる波の高さは『有義波高』と言い、10分間に押し寄せた波の高い順に三分の一を抽出し、その平均の高さを表した数字であり、あくまでも波の高さの目安にしか過ぎない。打ち寄せる波の百回に一回は1.5倍、千回に一回は2倍の高さの波が来ると言われている。波の力は想像以上に強い。ひざ下にも届かない程度の波でも、防波堤上に這い上がってくる波の力は人間程度の物体なら簡単にさらっていく。外洋に突き出した防波堤や海峡部の防波堤は、超大型の消波ブロックさえも押し流されるほどの潮流が流れている。落水して沖合に流されるのはマシな方だ。沖合に流されるのなら、ライフジャケットを正しく着用していれば、救助される可能性もある。しかし、大型消波ブロックの隙間に押し込まれた場合は絶望的だ。押し寄せる波の力で奥へ、奥へと押し込まれていく。テトラに付いた牡蛎や貝に皮膚を裂かれ、波の圧力によって肉が潰され、骨が砕かれていく。ゆっくりと、緩急を付け、被災者の苦悶を楽しむが如く……。地獄の責めでさえも、ここまで残酷にして苛烈ではないだろう。海上保安官は以前に回収した遺体を思い出し、喉の奥に苦酸っぱいものがこみ上げるのを感じた。

 世界各国の主要貿易港では、テロ対策として立ち入りが禁じられている。爆破テロや火災事故が起きたら被害は甚大だ。故に立ち入りを厳重に禁じているのだ。また、水産資源の保護や種苗幼魚の育成、野鳥の飛来地など自然環境の保護目的で、立ち入りが禁止されている場所もある。いずれの立ち入り禁止区域も、高いフェンスを張り巡らせ、有刺鉄線や忍び返しを設置して侵入を防いではいる。しかし、釣り人たちは大型ニッパーでフェンスやゲートの鍵を破壊し、あるいは、はしごを掛けて立ち入り規制区域に入り込む。そしてそれを武勇伝として自慢する者もいる。危険を冒してまで釣行し「俺はこんなにも釣りに打ち込んでいるぞ」とナルシスティックなヒロイズムに酔う。珍走団(=暴走族)が反社会的行為をして喜んでいるように。

 今日も、事の分別をわきまえているはずの大人が、どこかの立ち入り禁止区域で竿を出している……。

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YASU ・居眠釣四郎・眠釣
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男性
自己紹介:
釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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