釣り好きの伯父

　母方本家筋総領の伯父御が今日、満81歳で逝った。釣りが好きで好きで大好きで、この春までは雨が降ろうが、風が吹こうが、毎日、海に出掛けていた。金曜日の午前中に見舞いに行った時は、すでに緩和ケア病棟に入っていたのだが、話もできたし、笑顔も見せてくれていた。

　

５年前の２月、釣り情報誌「ハローフィッシング」に連載を始めた頃、真冬で釣りモノが少なくてネタに困っていた時に、
　「アカメボラ（メナダ）とマダカ（フッコ）で良けりゃ取材に来い。
　　何？　そんなトコでマダカが本当に釣れるかだと？
　　エエからいっぺん太田川に来い。釣ってみせたるにィ！」
ってな話で、連載第２回目の取材に協力してもらった。'02年２月12日午後２時。待ち合わせた釣り場に行ってみると、竿もリールも30年モノ、仕掛けは道糸にスナップ付きサルカンを通して、15号くらいのナス型オモリを付け、ハリス３号40cmに丸セイゴ針15号ってな、もう、適当な在り合わせの釣具に、糸と針とオモリって感じの道具立てのご隠居さんが４人。このアバウトなタックルに太めのアオイソメを２匹掛けてドボンッ。
　「どんだけアバウトな釣りだよ……」
なんて思っていたら、釣れちゃうジャンよ。キッチリと。アカメボラ（メナダ）54cm、54cm、57cmと連続ヒット。ドラグなんて効きゃしねェリールだけど、見事な竿さばきで魚の抵抗をいなし、最後はゴリ巻きで取り込み完了。
　「釣れてるけど、メナダばっかしじゃなァ……」
と歎息をついていたら、伯父御の竿がガタガタッ。伯父御がアワセを入れると、ザバッ～とエラ洗い。オンボロ釣具にアバウト仕掛けで釣ったのは、マダカ54cm！
　「マジで釣っちゃったよ、このジイさん……」
マダカを持った笑顔のブツ持ち写真を撮ろうとしたら、伯父御がどうしても笑ってくれない。
　「伯父さ～ん、もそっとね、こう、嬉しそうにしてよ」
と頼んだら、嬉しそうな顔をしたら、いつもは釣れていないと思われるからイヤなんだと。はいはい、わかったわかった。お好きな表情でどうぞ。

　誌面を飾った、マダカを抱え、ぶっきらぼうな表情ながらも、目の奥に笑みを湛えた伯父御の写真。そのカラー原画写真が再び使われる事になってしまった。釣りが大好きで、病床にあっても夢の世界で釣りをしていた、伯父御の遺影として……。