釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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昨夜、午前1時過ぎ、愛犬ロンの容態が急変した。左後肢も麻痺し、それに伴う痛みで部屋中を前肢だけで這いずり回る。キュンキュン、ヒュンヒュンと苦痛を訴えかける。老化によって脆くなっていた腰椎の悪化だろう。水を飲ませてやり、「朝まで辛抱するんだよ。朝になったら動物病院に連れて行ってやるから……」と頭や身体を撫で続けてやる。苦しげな息をしながらも、痛みに悶え疲れたのだろう、自分の腕に頭を預け、クゥ~ンと少しおとなしくなった。
午前4時。ロンが再びむずかりだした。ハァハァと息を切らせながら、便意を訴えている。ロンを抱きかかえて外へ連れ出し、植え込みの蔭にペットシートを敷く。後肢が麻痺しているので、腰を支えてやりながら排尿の介助。オシッコを済ませたらロンが落ち着いた。あと5時間で病院の開く時間になる。もう少し我慢しておくれ。
午前8時30分。父と母に「昨夜、ロンが急変した。今から動物病院へ連れて行く」と連絡を入れ、ロンを抱きかかえて玄関を出た。その途端にロンが失禁。ロンも抱きかかえていた自分も、ロンのオシッコでビショビショ。部屋にとって返し、急いで自分の着替えと、ロンの身体を濡れタオルで良く拭いて、家を出直したのは午前9時過ぎ。
動物病院の直前まで来たところで、スーパーマーケットのセール渋滞で身動きが取れなくなった。ロンはハァハァと苦しげに息を切らせている。気持ちは焦るが、どうにもならない。ようやく動物病院の駐車場に着いたのは午前10時を少し過ぎた頃だった。後肢が麻痺してペットキャリーが使えないため、段ボール箱に入れたロンを抱えて病院へ走る。両親はすでに病院に到着していた。ロンは呼吸は荒いが、いくらか落ち着いた様子。だが、これは苦痛が治まったのではなく、悶え疲れただけだ。受付で「昨夜、容態が急変しました。後肢は左右とも麻痺し、痛みが酷いらしく一晩中唸り、這いずっていた状態です。今、少し落ち着いている様に見えますが、おそらく悶え疲れているだけだと思います」と伝える。重篤と言う事で、順番を優先してもらえた。
午前10時30分。診察室に呼ばれる。両親と共に診察室へ。先生に昨夜からの状態を伝える。診察開始。ロンの体重は7.5kg。体温38.6度。後肢は左右とも反射が失せた麻痺状態。呼吸は相変わらず荒い。聴診器で慎重に先生がロンの胸の音を聴く。呼吸音に雑音が混じっており、肺に何か障害が起きている模様。――、最も恐れていた事態が現実になってしまった。
先生:「後肢の麻痺は高齢による腰椎の損傷が原因です。それと、検査をして見なれば確定はできませんが、肺へのガン転移が疑われます……」
YASU:「先生、この先は治療というよりも延命処置になりますか?」
先生:「はい。ステロイド剤などで痛みを抑え、延命を図るだけです」
YASU:「腰の苦痛も繰り返し襲ってきますよね」
先生:「はい……。そのたびに痛みを除いてあげる事になります」
母 :「もう、ロンは充分頑張りました。安楽死をお願いできるでしょうか?(すすり泣き)」
先生:「選択肢として選んでいただいても結構です」
YASU:「お願いします。楽にしてやってください(嗚咽)」
先生:「わかりました。(デスクから書類を取り出し)こちらにサインを……」
安楽死の依頼書。良く読んだつもりだが、まったく文章の内容を記憶していない。ただ、"同意書" ではなく "依頼書" であった事、自分の名前とロンの名前・年齢・犬種を記入した事だけ、異様にハッキリと覚えている。サインを終え、書類を先生に渡す。
先生:「ご希望であれば立ち会えますが……」
YASU:「立ち会います。お願いします」
先生:「ロンちゃんをお預かりして準備をしますので、待合室でお待ちください」
愛猫アビの点滴をしなければならないため、自宅で留守番をしている家内に、ロンの尊厳死を選んだ旨を電話で伝えておく。
(※自分は「安楽死」ではなく、ロンの「尊厳死」だと考えているので、尊厳死と表記します)
20分後、診察室に呼ばれる。ロンの後肢にカテーテルが差し込まれている。その横には透明1本、黄色2本の合計3本の注射。先生の「では……」の声でカテーテルに注射器が差し込まれ、透明の麻酔薬を注入……。が、麻酔薬が入っていかない。ロンの血管が細く脆くなっていたため、挿入した血管カテーテルがうまく血管内に収まらなかった様だ。再度、血管確保のためにロンは処置室へ。両親と自分は待合室へ。ロンよ、おまえ……。
10分後、再度診察室へ。今度はきちんと入った。透明な麻酔薬が注入された瞬間、ロンが違和感を感じたらしくむずかる。しかし、数秒とかからずに呼吸が安定する。ロンを襲っていた痛みや不快感が、麻酔薬で消えたのだろう。ロンの顔を両手で支え、しっかりとロンの目を見据える。ロンも自分の顔を見詰めている。ロンが穏やかで夢見る様な表情になっていく。続いて黄色い薬液が注入される。ゆっくりとロンの目の光が失せていく。介助に着いてくれた、動物看護師のKさんのすすり上げる声が聞こえる。さらにもう一本、黄色い薬液を注入。ロンの呼吸が止まった。フワッとロンの瞳孔が開く。先生が聴診器でロンの心臓の拍動停止を確認。ロンに別れの言葉を、父、母、自分の順で掛けてやる。
ロンはエンジェルケアを受けに処置室へ。戻ってきたロンはきれいにブラッシングされ、白布に覆われていた。枕辺には小さな花束が添えられている。目を赤くした先生が、震える声で語ってくれた。
先生:「ロンちゃんは幾度もの大きな病気を乗り越え、今日までよく頑張ったと思います。最後はお力になれず、申し訳ありません……」
YASU:「とんでもない。先生のおかげで、ロンは今日まで生きられました。そして安らかに旅立てました。ありがとうございました」
なんとか気丈に振る舞って来たが、会計で尊厳死の費用を支払い(安楽死処置料5千円)、白布で覆われたロンを納めた段ボール箱を抱えて「さぁ、ロン。お家に帰ろう」と、つぶやいた途端に涙が溢れ出た。動物病院の入口にいた方が、気持ちを察して動物病院の玄関ドアを開けてくれた。「ありがとうございます」とお礼を言うと、その方も泣いてくれていた……。
帰宅すると、家内が大泣きしながら玄関まで出てきた。立ち会えなかっただけに、余計にツライだろう。リビングにロンを安置し、二人でロンと過ごした日々の想い出を泣き語っていると、動物病院からお供えとして白百合と白いカーネーションの大きな花束が届いた。あぁ、本当に良い動物病院を選んだ。獣医師の先生、動物看護師のみなさんへの感謝で胸が一杯になった。ロンとの別れの悲しみが、動物病院のみなさんへの感謝で和らいだ。
'07年6月17日午前11時20分。ロンは苦しみや痛みから解放され、飼い主である自分の顔をその瞳に映しながら、14歳6ヶ月と14日の生涯に幕を引き、静かに天へと帰っていった。
ロンよ、大儀であった。今日までよく仕えてくれた。お主と過ごした日々は楽しかったぞ。いつの日かまた相見ゆる時あらば、今度は友として遊ぼうぞ。
午前4時。ロンが再びむずかりだした。ハァハァと息を切らせながら、便意を訴えている。ロンを抱きかかえて外へ連れ出し、植え込みの蔭にペットシートを敷く。後肢が麻痺しているので、腰を支えてやりながら排尿の介助。オシッコを済ませたらロンが落ち着いた。あと5時間で病院の開く時間になる。もう少し我慢しておくれ。
午前8時30分。父と母に「昨夜、ロンが急変した。今から動物病院へ連れて行く」と連絡を入れ、ロンを抱きかかえて玄関を出た。その途端にロンが失禁。ロンも抱きかかえていた自分も、ロンのオシッコでビショビショ。部屋にとって返し、急いで自分の着替えと、ロンの身体を濡れタオルで良く拭いて、家を出直したのは午前9時過ぎ。
動物病院の直前まで来たところで、スーパーマーケットのセール渋滞で身動きが取れなくなった。ロンはハァハァと苦しげに息を切らせている。気持ちは焦るが、どうにもならない。ようやく動物病院の駐車場に着いたのは午前10時を少し過ぎた頃だった。後肢が麻痺してペットキャリーが使えないため、段ボール箱に入れたロンを抱えて病院へ走る。両親はすでに病院に到着していた。ロンは呼吸は荒いが、いくらか落ち着いた様子。だが、これは苦痛が治まったのではなく、悶え疲れただけだ。受付で「昨夜、容態が急変しました。後肢は左右とも麻痺し、痛みが酷いらしく一晩中唸り、這いずっていた状態です。今、少し落ち着いている様に見えますが、おそらく悶え疲れているだけだと思います」と伝える。重篤と言う事で、順番を優先してもらえた。
午前10時30分。診察室に呼ばれる。両親と共に診察室へ。先生に昨夜からの状態を伝える。診察開始。ロンの体重は7.5kg。体温38.6度。後肢は左右とも反射が失せた麻痺状態。呼吸は相変わらず荒い。聴診器で慎重に先生がロンの胸の音を聴く。呼吸音に雑音が混じっており、肺に何か障害が起きている模様。――、最も恐れていた事態が現実になってしまった。
先生:「後肢の麻痺は高齢による腰椎の損傷が原因です。それと、検査をして見なれば確定はできませんが、肺へのガン転移が疑われます……」
YASU:「先生、この先は治療というよりも延命処置になりますか?」
先生:「はい。ステロイド剤などで痛みを抑え、延命を図るだけです」
YASU:「腰の苦痛も繰り返し襲ってきますよね」
先生:「はい……。そのたびに痛みを除いてあげる事になります」
母 :「もう、ロンは充分頑張りました。安楽死をお願いできるでしょうか?(すすり泣き)」
先生:「選択肢として選んでいただいても結構です」
YASU:「お願いします。楽にしてやってください(嗚咽)」
先生:「わかりました。(デスクから書類を取り出し)こちらにサインを……」
安楽死の依頼書。良く読んだつもりだが、まったく文章の内容を記憶していない。ただ、"同意書" ではなく "依頼書" であった事、自分の名前とロンの名前・年齢・犬種を記入した事だけ、異様にハッキリと覚えている。サインを終え、書類を先生に渡す。
先生:「ご希望であれば立ち会えますが……」
YASU:「立ち会います。お願いします」
先生:「ロンちゃんをお預かりして準備をしますので、待合室でお待ちください」
愛猫アビの点滴をしなければならないため、自宅で留守番をしている家内に、ロンの尊厳死を選んだ旨を電話で伝えておく。
(※自分は「安楽死」ではなく、ロンの「尊厳死」だと考えているので、尊厳死と表記します)
20分後、診察室に呼ばれる。ロンの後肢にカテーテルが差し込まれている。その横には透明1本、黄色2本の合計3本の注射。先生の「では……」の声でカテーテルに注射器が差し込まれ、透明の麻酔薬を注入……。が、麻酔薬が入っていかない。ロンの血管が細く脆くなっていたため、挿入した血管カテーテルがうまく血管内に収まらなかった様だ。再度、血管確保のためにロンは処置室へ。両親と自分は待合室へ。ロンよ、おまえ……。
10分後、再度診察室へ。今度はきちんと入った。透明な麻酔薬が注入された瞬間、ロンが違和感を感じたらしくむずかる。しかし、数秒とかからずに呼吸が安定する。ロンを襲っていた痛みや不快感が、麻酔薬で消えたのだろう。ロンの顔を両手で支え、しっかりとロンの目を見据える。ロンも自分の顔を見詰めている。ロンが穏やかで夢見る様な表情になっていく。続いて黄色い薬液が注入される。ゆっくりとロンの目の光が失せていく。介助に着いてくれた、動物看護師のKさんのすすり上げる声が聞こえる。さらにもう一本、黄色い薬液を注入。ロンの呼吸が止まった。フワッとロンの瞳孔が開く。先生が聴診器でロンの心臓の拍動停止を確認。ロンに別れの言葉を、父、母、自分の順で掛けてやる。
ロンはエンジェルケアを受けに処置室へ。戻ってきたロンはきれいにブラッシングされ、白布に覆われていた。枕辺には小さな花束が添えられている。目を赤くした先生が、震える声で語ってくれた。
先生:「ロンちゃんは幾度もの大きな病気を乗り越え、今日までよく頑張ったと思います。最後はお力になれず、申し訳ありません……」
YASU:「とんでもない。先生のおかげで、ロンは今日まで生きられました。そして安らかに旅立てました。ありがとうございました」
なんとか気丈に振る舞って来たが、会計で尊厳死の費用を支払い(安楽死処置料5千円)、白布で覆われたロンを納めた段ボール箱を抱えて「さぁ、ロン。お家に帰ろう」と、つぶやいた途端に涙が溢れ出た。動物病院の入口にいた方が、気持ちを察して動物病院の玄関ドアを開けてくれた。「ありがとうございます」とお礼を言うと、その方も泣いてくれていた……。
帰宅すると、家内が大泣きしながら玄関まで出てきた。立ち会えなかっただけに、余計にツライだろう。リビングにロンを安置し、二人でロンと過ごした日々の想い出を泣き語っていると、動物病院からお供えとして白百合と白いカーネーションの大きな花束が届いた。あぁ、本当に良い動物病院を選んだ。獣医師の先生、動物看護師のみなさんへの感謝で胸が一杯になった。ロンとの別れの悲しみが、動物病院のみなさんへの感謝で和らいだ。
'07年6月17日午前11時20分。ロンは苦しみや痛みから解放され、飼い主である自分の顔をその瞳に映しながら、14歳6ヶ月と14日の生涯に幕を引き、静かに天へと帰っていった。
ロンよ、大儀であった。今日までよく仕えてくれた。お主と過ごした日々は楽しかったぞ。いつの日かまた相見ゆる時あらば、今度は友として遊ぼうぞ。
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