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釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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 晩夏の夕暮れ。彼女はパーカーのフードをはずして、水面に目をやった。満潮から1時間、潮が動き出す時間だった。ライフジャケットの大型ポケットからプラスチックのケースを取り出した。7〜11cmほどのルアーが10個入っていた。頭部だけが赤く塗られた白いルアーを選び、アイと呼ばれる先端の環に釣り糸を器用に結んだ。岸壁際に立ち竿を振った。ヒュッ! 風切音が小さく鳴った。

 3年前の秋。彼女は恋人の車でナイトドライブを楽しんでいた。ふと立ち寄った小さなマリーナ。何人もの釣り人がいた。釣りに興味はなかったが、何が釣れるのか気になった。「ヒットォッ!」堤防の角にいた釣り人の声が響いた。恋人と共に釣り人の方へ走った。竿が大きく曲がっていた。初めて見る魚とのヤリトリ。竿を寝かせ、左右に振り、時には膝をつく。リールがジリジリと音を立てているのが聞こえた。
 「よーし、よーし、寄ってきた」
 「デカイな。タモお願いしまーす」
もう一人の釣り人が大きなタモ網を差し出した。水面に向けられたタモ網の柄がスルスルと伸びた。
 「あ、伸びるんだ」
今考えると、変なところに感心していた。バシャバシャッ! タモ取りされた魚のあがく水音が聞こえた。
 「う〜ん、ヨイセッと……」
堤防に魚が上げられた。横たわる魚体を見て彼女は絶句した。巨魚。そう思った。握手を交わした後、メジャーを当てる釣り人。82cm。釣り人はデジカメで数枚の写真を撮ると、せっかくの大物を海に帰した。
 「え〜っ、あんな大物を逃がしちゃうんですか?」
思わず声に出た。
 「食べるワケじゃないから、逃がしてやったんだ。
  食べ頃サイズなら持って帰ることもあるけどね」
釣り人は事もなげに答えた。

 どんなエサで釣ったんだろう? 堤防に置かれた竿の先をのぞき込んでみた。小さな魚の形をしたおもちゃが付いていた。車に戻り、恋人に聞いた。
 「あんなオモチャで魚が釣れるんだね」
 「ルアーだよ。スズキがエサの小魚だと思って食い付くんだ」
 「知ってるの?」
 「話だけならね。やってみたいの?」
 「ちょっとカッコイイかも……」

 翌日、二人で釣具店に行った。釣りの知識の薄い二人は困惑した。店員にアドバイスをもらおうにも、何を聞けばよいのかわからない。雑誌コーナーを覗いてみた。『初めての海のルアー釣り』というタイトルのムック本が目に入った。その本を買うことに決め、ソルトルアーコーナーに戻った。タックルを二人分揃えるとなると、かなりの出費になる。
 「3万円くらいで、二人分の道具を揃えたいんですけど……」
率直に予算を店員に告げて、おすすめタックルを紹介してもらった。彼女はシャンパンゴールドのリールに、白い9フィートロッドを選んだ。恋人は同じリールに黒い9フィートのロッド。ルアーはベイエリアの定番と言われる7cmと9cmを3個ずつ。ラインはシステムを組まなくてもなんとかなる12ポンドを150m巻いた。タモ網は45cm枠5.4mの一番安いやつを買った。支払いは予算を大きく越え、二人分で4万5千円だった。これだけの投資をしたのだから、何が何でもシーバスを釣りたい。彼女は闘志を燃やした。

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プロフィール
HN:
YASU ・居眠釣四郎・眠釣
性別:
男性
自己紹介:
釣りと動物と時代劇、時代小説をこよなく愛する、腰は低いが頭が高い、現代版「無頼浪人」にて候。
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