釣り、ペット、短編小説、雑記、紙誌掲載原稿
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タイ、ヒラメ、尻尾の黄色い回遊魚、イカの王様アオリイカ。陸っぱり釣り人の勲章とも言える、憧れの釣魚だ。釣趣はもちろん、食味の良さもすこぶる付きの高級魚だけに、ボウズ覚悟の釣りと言われても、足繁く釣り場に通う釣り人も多い。特にアオリイカは身切れ、足切れで取り込み直前に逃げられて口惜しい思いをさせてくれる難敵だ。アオリイカには活き餌での泳がせ釣り、ヤエン釣り、和製ルアーの餌木を使ったエギングと三通りの釣法がある。最もアタリが多い代わりに、取り込み率の低いのがヤエン釣り。有名な村田満氏をして、「ウァ~、また逃げよった。ほんまに難儀な釣りやで!」と言わしめている釣りである。この難儀な釣りにも関わらず、「イカがアジを抱いてさえくれれば、十中八九取り込んで見せまっせ。最近の取り込み率は10割!」と豪語するのが、釣り針メーカーかわせみ針の吉田社長。迷わず弟子入りして、ヤエン円月釣法の直伝をお願いした。
そのヤエン円月釣法とは、投入からアタリを待つまでは従来のヤエン釣りと同じ。餌のアジをしっかりと抱き、食い気に目が眩んで、少々の違和感を感じてもアジを放さなくなるまで待つ。ドラグを鳴らす走りが止まり、ソ~ッと竿先を上げてテンションを掛けても動かなくなったら、ドラグを中間位置まで締めて、ヤエン投入にベストの角度が取れる距離まで寄せる。そしてヤエン投入。使用するヤエンはかわせみ針製のフルステ100。ここからが従来のヤエン釣法とは趣を別にする。ヤエン投入時に肩に担いでいた竿を手に持ち、リールのドラグを締め込み、いったん竿を海面と並行に寝かせてから、眠狂四郎の円月殺法よろしく、大きくゆっくりと半円を描くように竿を立ててヤエンを送り込む。次の瞬間、竿先がギュンと絞り込まれ、ヤエンの針が刺さったアオリイカが怒りの逃走を開始。すかさず「グィ~ン!」とアワセを入れた吉田社長が、「堪えられませんな~ァ」とニヤリと笑みを浮かべる。200年の時を超え、愛刀の無想正宗をメガドライAIR 0.8号5.3mに持ち替えた、眠狂四郎がそこにいた。
さて、アオリイカ釣りの第二関門がこのヤリトリ。良型になればなるほど、自重とパワーで身切れしやすい。恥じらう乙女を抱き寄せるが如く、優しくゆっくりと抵抗をいなすべし。美しい弧を描いてメガドライAIR 0.8号5.3mがしなる。20m程先の海面にボワッと墨が広がった。我が事のように大昂奮で鼻の穴をふくらませてイカギャフを用意しようとすると、吉田社長に制止された。「完全に引き寄せるまでギャフを用意したらあきません。こっちの殺気が伝わったら、あちらさんも必死に抵抗します。まぁ、ゆっくりとヤリトリを見ときなさい」と余裕シャクシャク。海面に何度もブシューッと水飛沫が上がる。強烈な走りで抵抗を続けたアオリイカもついに岸壁下まで引き寄せられた。ここが第三関門で取り込み直前のバラシも多い。イカギャフを素早く打ち込む。海面と平行に持ち上げようとするとイカがギャフから外れてしまうので、海面と垂直にスルスルとタモの柄を畳んで取り込み成功。ヤリトリを見守っていたギャラリーから称賛の歓声が上がる。華麗なまでの釣技で仕留めたアオリイカは胴長36cm。「1杯だけではまぐれやと言われてしまうから、もう1杯釣りましょか」。
30分後、再び吉田社長の竿にアタリ。今度のアオリイカはアジを抱くやいなや、85mも道糸を引き出した。「今度のイカはずいぶんと足の長い、ジャジャ馬のおてんばやね」と苦笑。あまり走られると、ヤエンの投入可能距離に寄せるまでの間に逃げられる可能性が高まる。「いや~、この寄せの時はなんぼ経験しても足が震えますわ」と言いながらも、アジを抱いただけのアオリイカを引き寄せる、ヤエン釣り最大の醍醐味を楽しみながら、ゆっくり慎重にヤエン投入距離まで寄せると、ヒョイと竿を肩に担ぎ、道糸を取ってヤエン投入。1杯目を釣り上げた時の再現フィルムを見ているかのような、完成された吉田流ヤエン円月釣法で取り込まれた2杯目は胴長30cm。微笑を浮かべて「取り込み率10割は、口先だけじゃおまへんやろ?」と語る吉田社長の言葉には、自社製品と自らの釣技への揺るぎない自信が感じられた。
翌日は小雨の降り続く一日だったが、早朝からアオリイカフリークで釣り場はほぼ満員。前日と同じ場所に釣り座を構えたのだが、意に反してこの日はなかなかアタリが来ない。「これは我慢の釣りになるな」と持久戦を覚悟した午前9時過ぎ。吉田社長の出していた2本竿に同時にアタリが出た。二つのリールがジィ~とドラグを鳴らす。慌てることなく左側の竿を手に取り「右側の竿はアジが大きめ。しばらく放っておいても大丈夫」と吉田社長。悠々と本日1杯目アオリイカを引き寄せ、慣れた手つきでスッとヤエンを投入。必死の逃亡を図るアオリイカも、吉田社長の手練手管のヤリトリにあえなく御用。続いてもう一本の竿に取りかかる。このアオリイカは寄せの段階で海面まで浮いてきた。「ありゃー、これはいかん。ヤエンを送る角度が浅いがな」。それでもヤエンを送り込まねば絶対に釣れない。竿を頭上にかざし、さらに背伸びをしてヤエンを送る。ヤエンが届いた頃合いを見計らってテンションを掛けたまま竿をいったん横に寝かせ、円月釣法アワセ。見事に乗った。海面におびただしい墨を吐き出しながら引き寄せられるアオリイカ。2杯目も岸壁に身を横たえた。計測すると2杯とも胴長30cm。アオリイカはボウズ覚悟の釣り、その中でもヤエン釣りは最も非効率な釣りだと思っていた自分には、目から鱗どころか瓦が落ちるような思いだった。
実を言うと、自分もアオリイカ釣りは好きだが、ヤエン釣りはヒット数に比べて取り込み率が著しく低く、ストレスが溜まるばかりなので、2度ほど経験してサッサとやめてしまった釣法。釣り情報誌の記事だけを頼りに、我流でやっていたのだから取り込み率が低いのも、当然と言えば当然なのだが……。それ以来、アオリイカは活き餌での泳がせ釣りか、エギングで狙っていた。それが吉田社長に弟子入りして、餌付けの手際、送り込み、寄せ、アワセ、やりとりまでをみっちりと仕込んでいただいてから、ヤエン釣りへの苦手意識はすっかり無くなった。今では「ヤエン釣りは得意!」と言っても良いほど、取り込み率もアップしたし、何よりも、イカがアジを抱いて走り、ヤエンの投入可能距離まで引き寄せる、という今まで最も苦手としていたプロセスを、ワクワクしながら楽しめるようになった。師匠の釣法を "ヤエン円月釣法" と名付けたのも自分だ。あれほど苦手だった(と言うか、あまりの取り込み率の悪さに毛嫌いしていた)ヤエン釣りに自信が持てた。我流のヤエン釣りで四苦八苦した挙げ句、行き詰まりを感じて投げ出してしまった自分だから言えるのだが、やはり、その道の巧釣手から2泊3日、朝から晩までじっくりと直伝を受け、奥義を授かると釣格(=釣技の格)が上がりますぞ。
【吉田社長の使用タックル】
ロッド:ダイワ メガドライAIR 0.8号5.3m
リール:シマノ ナビ4000L
ライン:ゴーセン アオリイカ フロロスペシャル1.75号
ヤエン:かわせみ針 フルステ100(M)
【YASUの使用タックル】
ロッド:ダイワ ブレイゾンマルチ 1.5号5.2m
リール:シマノ BB-X EV3000 アオリイカ
ライン:ゴーセン アオリイカ フロロスペシャル1.75号
ヤエン:かわせみ針 フルステ100(M)
そのヤエン円月釣法とは、投入からアタリを待つまでは従来のヤエン釣りと同じ。餌のアジをしっかりと抱き、食い気に目が眩んで、少々の違和感を感じてもアジを放さなくなるまで待つ。ドラグを鳴らす走りが止まり、ソ~ッと竿先を上げてテンションを掛けても動かなくなったら、ドラグを中間位置まで締めて、ヤエン投入にベストの角度が取れる距離まで寄せる。そしてヤエン投入。使用するヤエンはかわせみ針製のフルステ100。ここからが従来のヤエン釣法とは趣を別にする。ヤエン投入時に肩に担いでいた竿を手に持ち、リールのドラグを締め込み、いったん竿を海面と並行に寝かせてから、眠狂四郎の円月殺法よろしく、大きくゆっくりと半円を描くように竿を立ててヤエンを送り込む。次の瞬間、竿先がギュンと絞り込まれ、ヤエンの針が刺さったアオリイカが怒りの逃走を開始。すかさず「グィ~ン!」とアワセを入れた吉田社長が、「堪えられませんな~ァ」とニヤリと笑みを浮かべる。200年の時を超え、愛刀の無想正宗をメガドライAIR 0.8号5.3mに持ち替えた、眠狂四郎がそこにいた。
さて、アオリイカ釣りの第二関門がこのヤリトリ。良型になればなるほど、自重とパワーで身切れしやすい。恥じらう乙女を抱き寄せるが如く、優しくゆっくりと抵抗をいなすべし。美しい弧を描いてメガドライAIR 0.8号5.3mがしなる。20m程先の海面にボワッと墨が広がった。我が事のように大昂奮で鼻の穴をふくらませてイカギャフを用意しようとすると、吉田社長に制止された。「完全に引き寄せるまでギャフを用意したらあきません。こっちの殺気が伝わったら、あちらさんも必死に抵抗します。まぁ、ゆっくりとヤリトリを見ときなさい」と余裕シャクシャク。海面に何度もブシューッと水飛沫が上がる。強烈な走りで抵抗を続けたアオリイカもついに岸壁下まで引き寄せられた。ここが第三関門で取り込み直前のバラシも多い。イカギャフを素早く打ち込む。海面と平行に持ち上げようとするとイカがギャフから外れてしまうので、海面と垂直にスルスルとタモの柄を畳んで取り込み成功。ヤリトリを見守っていたギャラリーから称賛の歓声が上がる。華麗なまでの釣技で仕留めたアオリイカは胴長36cm。「1杯だけではまぐれやと言われてしまうから、もう1杯釣りましょか」。
30分後、再び吉田社長の竿にアタリ。今度のアオリイカはアジを抱くやいなや、85mも道糸を引き出した。「今度のイカはずいぶんと足の長い、ジャジャ馬のおてんばやね」と苦笑。あまり走られると、ヤエンの投入可能距離に寄せるまでの間に逃げられる可能性が高まる。「いや~、この寄せの時はなんぼ経験しても足が震えますわ」と言いながらも、アジを抱いただけのアオリイカを引き寄せる、ヤエン釣り最大の醍醐味を楽しみながら、ゆっくり慎重にヤエン投入距離まで寄せると、ヒョイと竿を肩に担ぎ、道糸を取ってヤエン投入。1杯目を釣り上げた時の再現フィルムを見ているかのような、完成された吉田流ヤエン円月釣法で取り込まれた2杯目は胴長30cm。微笑を浮かべて「取り込み率10割は、口先だけじゃおまへんやろ?」と語る吉田社長の言葉には、自社製品と自らの釣技への揺るぎない自信が感じられた。
翌日は小雨の降り続く一日だったが、早朝からアオリイカフリークで釣り場はほぼ満員。前日と同じ場所に釣り座を構えたのだが、意に反してこの日はなかなかアタリが来ない。「これは我慢の釣りになるな」と持久戦を覚悟した午前9時過ぎ。吉田社長の出していた2本竿に同時にアタリが出た。二つのリールがジィ~とドラグを鳴らす。慌てることなく左側の竿を手に取り「右側の竿はアジが大きめ。しばらく放っておいても大丈夫」と吉田社長。悠々と本日1杯目アオリイカを引き寄せ、慣れた手つきでスッとヤエンを投入。必死の逃亡を図るアオリイカも、吉田社長の手練手管のヤリトリにあえなく御用。続いてもう一本の竿に取りかかる。このアオリイカは寄せの段階で海面まで浮いてきた。「ありゃー、これはいかん。ヤエンを送る角度が浅いがな」。それでもヤエンを送り込まねば絶対に釣れない。竿を頭上にかざし、さらに背伸びをしてヤエンを送る。ヤエンが届いた頃合いを見計らってテンションを掛けたまま竿をいったん横に寝かせ、円月釣法アワセ。見事に乗った。海面におびただしい墨を吐き出しながら引き寄せられるアオリイカ。2杯目も岸壁に身を横たえた。計測すると2杯とも胴長30cm。アオリイカはボウズ覚悟の釣り、その中でもヤエン釣りは最も非効率な釣りだと思っていた自分には、目から鱗どころか瓦が落ちるような思いだった。
実を言うと、自分もアオリイカ釣りは好きだが、ヤエン釣りはヒット数に比べて取り込み率が著しく低く、ストレスが溜まるばかりなので、2度ほど経験してサッサとやめてしまった釣法。釣り情報誌の記事だけを頼りに、我流でやっていたのだから取り込み率が低いのも、当然と言えば当然なのだが……。それ以来、アオリイカは活き餌での泳がせ釣りか、エギングで狙っていた。それが吉田社長に弟子入りして、餌付けの手際、送り込み、寄せ、アワセ、やりとりまでをみっちりと仕込んでいただいてから、ヤエン釣りへの苦手意識はすっかり無くなった。今では「ヤエン釣りは得意!」と言っても良いほど、取り込み率もアップしたし、何よりも、イカがアジを抱いて走り、ヤエンの投入可能距離まで引き寄せる、という今まで最も苦手としていたプロセスを、ワクワクしながら楽しめるようになった。師匠の釣法を "ヤエン円月釣法" と名付けたのも自分だ。あれほど苦手だった(と言うか、あまりの取り込み率の悪さに毛嫌いしていた)ヤエン釣りに自信が持てた。我流のヤエン釣りで四苦八苦した挙げ句、行き詰まりを感じて投げ出してしまった自分だから言えるのだが、やはり、その道の巧釣手から2泊3日、朝から晩までじっくりと直伝を受け、奥義を授かると釣格(=釣技の格)が上がりますぞ。
【吉田社長の使用タックル】
ロッド:ダイワ メガドライAIR 0.8号5.3m
リール:シマノ ナビ4000L
ライン:ゴーセン アオリイカ フロロスペシャル1.75号
ヤエン:かわせみ針 フルステ100(M)
【YASUの使用タックル】
ロッド:ダイワ ブレイゾンマルチ 1.5号5.2m
リール:シマノ BB-X EV3000 アオリイカ
ライン:ゴーセン アオリイカ フロロスペシャル1.75号
ヤエン:かわせみ針 フルステ100(M)
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